オセロ界が世界選手権で盛り上がっている中、衝撃の情報が飛び込んで来ました。
双方最善を尽くした場合に引分になるというのが証明されたと言うのです!(論文は
こちら)
論文の技術的解説については
にゃにゃんさんの記事に詳しくありますので、ここではオセラー的見解を述べようと思います。(注:以下の内容の大部分は多くのオセラーにとっては常識である。)
双方最善で引分であることが判明しても人間同士の対局に影響を与えることはないと言われています。
理由としては以下の二つがよく挙げられているようです:
1. 元々双方最善で引き分けであることはほぼ確実視されていた
2. 最善手を暗記しようとしても分岐の数が多すぎるので人間には覚えきれない
1に関しては私も同意するところです。
しかし2はどうでしょうか?検証してみましょう。
まず、双方最善の引分進行はいくつあるのでしょうか?
SAIOによれば、2022年の10月時点で29個空き(つまり31手目まで)で260125通り見つかっているとされています。
確かに26万通りを全部覚えるのは人間にはちょっと無理そうですよね。
しかも仮に全部覚えても29個空き以降を自力で正しく打つというのもかなり無理な話で、実際にはもっと終盤まで覚えねばならず分岐は更に増えます。
ですが、少し考えればわかりますが、実戦的にはこの260125通りを全部覚える必要はありません。
というのも、自分が黒の時、白の時それぞれ打つ手を固定しておけば、それ以外の最善進行は覚える必要がないためです。
では、自分の打つ手を上手く固定した場合、どれくらい覚えればよいのでしょうか?
直感的には、分岐の回数が半分になるので平方根くらい、500くらいという予想が立つと思います。
しかし、実際はそれよりもはるかに少ないのです!(注:と信じられている。)
このような「自分が手を上手く固定した場合に分岐がどれくらいあるか」という概念は「最小暗記数指標」あるいは「うみがめ数」などとして知られていて、既に多くのオセロ研究ソフト上で実装されています。(注:うみがめさん、世界選手権優勝おめでとうございます。)
今回は
droidShimaxというソフトで検証していきます。(注:公式配布の強化Book使用。深さは35)
初期局面で評価値とうみがめ数を表示させると以下のようになります。
まず+0というのが、評価値、つまり双方最善なら引き分けということです。(注:もちろんこれは完全読みという意味ではないが、上記論文が正しければこれは実際に真の値である)
そしてその下に表示されている74:4というのが、36手目以降の分岐を無視した場合に、黒が覚える分岐数が74、白が覚えるべき分岐数が4ということです。(注:f5d6c3d3c4とf5d6c4d3c3が重複カウントされているため白の方が4となっているが、実際は2である。)
26万に比べたらはるかに少なく、これくらいなら覚えられそうな気になりますよね!
つまり、黒と白合わせて78通り覚えれば、「オセロの神様」相手に少なくとも35手目までは必ず引分の形勢で進められるわけです。(ここで「オセロの神様」は最善手のみを打つプレイヤーの意)
更に言えば、35手目まででなく最終手までの分岐を全て数えてもそこまで爆発的には増えず、黒はせいぜい150程度、白は4のままだと思います。(注:最終手までの分岐数を数える方法を持ち合わせていないので数値は私の半手動カウントによる。もし大きく間違ってたら教えてください。)
つまり150程度の棋譜を全暗記すれば、どんな初心者でも「オセロの神様」相手に必ず引き分けに持ち込めるわけです。
これら全てを覚えるのはそれなりに大変ではありますが、根気よく勉強すればそう長い時間をかけずとも人間に実行可能な範囲です。
というわけで、「オセロは終わった」のでしょうか?
もちろんそんなはずはありません。
実際には意図的に(あるいは非意図的に)最善ではない手を打つことにより上記約150通りからは逃れることは可能です。
そして、最善でない手まで含めて対応を全暗記すると、流石に分岐数が天文学的になってしまい、人間の人生の期間ではそもそも全てを並べることすら不可能なレベルです。
そのため、仮に初心者が上記約150を全暗記したとしても、人間の高段者がこれを倒すのは容易です。
一方で、棋力自体も強い人間がこれらを全部覚えたとしたらどうでしょう?
暗記を外して引分を回避するためには何かしら最善でない手を打たなければいけませんが、あまりに悪い手を打ってしまうと棋力で勝ち切られてしまいます。
そこで、最善でない手のなかでも、悪すぎない手を打つ必要があります。
ではそのような「悪すぎない」変化はいくつあるのでしょうか?
それら全てまで含めて完全暗記することは不可能なのでしょうか?
これらについては次回の記事で検討しようと思います。
(注:次回がいつあるかは不明)
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